里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21) [新書]

本書の内容を一言で言うなら「地域活性化の成功事例集」です。
その中でも里山にクローズアップして紹介されています。

なぜ里山なのか。
それは水、燃料(木材)、食べ物が手に入るからです。
「できるだけお金に頼らない本当に豊かな生活を取り戻そう」
というのが本書の趣旨だと思います。
「お金にすべてを委ねるから不安になるのだ。里山で自活できれば生きることへの不安が無くなり豊かな生活が送れるのではないか」
といったことが書かれています。
しかしそのあたりの論考があまりにも雑で何が言いたいのかよく分からないのであくまでも成功事例集として読むことをお勧めします。

それぞれの事例は素晴らしく示唆に富んでおり里山の活用というのはこれから力を入れていくべき分野だろうと思います。
そもそも農業、漁業に比して林業が壊滅的に衰退したのは政策の失敗からに他なりません。
かつては里山という里山を禿山にし、その後はそのほとんど全てを杉山にして林業を衰退させ挙句に花粉をまき散らしたまま放置という失政は今後何十年掛かっても取り戻していかなければならないでしょう。

もっとも本書ではそういった政策の転換といったことは念頭にありません。
あくまでも成功事例を積み上げて都市生活至上主義から田舎生活を見なおす価値転換を起こしていこうということです。

この考え自体は新しいものではなく、バブル経済崩壊以降たびたび言われてきた話であり、実際多くの人びとが田舎暮らしを目指し、数多の成功と失敗を繰り返してきました。
本書ではその良い部分のみを取り上げており一面的と言わざるを得ません。

例えばマネー資本主義を「マッチョな経済」里山資本主義を人間中心の「しなやかな経済」としていますが、実際には里山での生活こそ人を選びマッチョさを要求します。
また里山の機能を「非常時のバックアップ」とし、東日本大震災など災害時に役に立たないお金に変わる機能を提供するとしていますが、実際には最も毀損が少なく早く復旧したのはお金の機能であり、大きな打撃を受けたのは人命や家や車、農業漁業です。その状態にあって山は何のバックアップにもなっていませんでした。
なっていたのは都市部の豊富な物資です。

別に里山を否定したいわけではありません。ミスリードは良くないと言っているのです。
「里山資本主義」は目指すべき主義ではありません。多様化の時代にある一つの生き方です。そしてその価値観は一定の人々の生き方を変え幸福にするでしょう。
そもそも「里山資本主義」という名前にするからおかしな論考になるのです。

里山で自活したりコミュニティーを形成するのはそこに住む人、住みたい人の権利です。
その価値は見直されるべきですが、マネー資本主義のバックアップ機能などという無茶な負荷を与えるべきではありません。
バックアップとは出来るだけ多様化することであり、里山の生活もその一つとしてみるべきでしょう。