先日、車を運転している時のことです。
普段はスマホでポッドキャストのニュースを聞きながら運転するのですが、その日はスマホを修理に出していたので仕方なくラジオを付けました。
その時にいきなり流れてきたのが斉藤由貴の「情熱」です。



何十年ぶりに聞いたかわからないほど斉藤由貴の歌を聞いたのは久しぶりでした。そして(たまにはラジオも聞いてみるもんだな)と思ったと同時に僕はかつての出来事を思い出していました。


僕が二十歳を幾つか過ぎた頃でしょうか。
ある時友達の女の子に尋ねられました
「ロクタ君はどんなコがタイプなの?」
これ事体はよくある会話でそれまでに何度されたか分からないようなありふれた質問です。
しかしその日の僕の答えはいつもと違っていました。

「斉藤由貴。」

そう言ったと同時に、無意識に出たその名前に僕自身が驚きました。
その頃の僕は既にテレビはほとんど見ていなかったので斉藤由貴の姿を何年も見ていませんでしたし、曲もどこかのお店で掛かった時くらいしか聞くことはなかったからです。
そして恐らく斉藤由貴の名前を口にしたのもその日が初めてだったでしょう。


しかしそれでも僕はその無意識に出た名前を否定する気にはなりませんでした。理由が無いわけでは無かったからです。


その理由は更に何年も遡ります。

その時僕は中学生で周囲の大人にあまり恵まれずに育ちました。
そしてそのように育った子供の多くがそうであるように僕自身も優しい子供ではありませんでした。
同年代の何人かの女の子は僕に優しさを与えてくれましたが、僕はそれを素直に受け取ることが出来ずに冷たい態度を取っていました。今でも彼女たちに心から謝りたいと思っていますがそれを言う機会は永遠に訪れないでしょう。
そんな鬱屈した気持ちの中で無機質に流れる日々。ガタガタとうるさい机や椅子、こすれあうウインドブレーカーの音、舗装されたばかりの国道を流れるヘッドライト、キャビン・マイルドのストライプ---
全ては辿り着かないボトル・メールのようにただ漂うのみでした。

そんな時に活躍していたのが斉藤由貴です。
僕の5歳程年上だったそのアイドルに対する感情は良く分からないものでした。
特に好きだとか可愛いだとか思いませんでしたし歌もむしろ下手じゃないかと思っていたくらいです。
僕はアイドルに傾倒するタイプの子供ではありませんでしたが、友達とそういった話をするときには中森明菜だとか菊池桃子だとか言っていました。そしてついに斉藤由貴の名前を出すことはありませんでした。
ただ、(彼女と話をすれば気が合うんじゃないか)、(自分が持っていないものを持っているんじゃないか)そんなふうに考えていました。もちろんそんなものは思春期の妄想でしか無いわけですが当時はそんな感情を抱いていたのです。それが何なのか知るのはまだ先でした。

僕が斉藤由貴を気になりだしたのはスケバン刑事です。
それまでの不良モノのドラマの流れで見ていただけでそれほど内容が良かったわけではありませんがエンディングは気に入っていました。



スケバン刑事であるがゆえに普通の女子高生の生活が出来ない哀愁が出ていたのが良かったです。
ピークはAXIAのCMと「めぞん一刻」の主題歌の「悲しみよこんにちは」でした。





しかしyoutubeは何でも出てくるな。

その後は僕があまりテレビを見なくなったことや元々斉藤由貴が好きだというわけでもなかったこともあって次第に遠ざかってしまいました。
斉藤由貴自身もあまりよいドラマやヒット曲に恵まれなかったように思います。
久しぶりにヒットした井上陽水のカバー曲である「夢の中へ」はそれまでの斉藤由貴の曲のイメージとかけ離れていたこともあって僕はあまり好きになれませんでした。




そしてすっかり忘れていた数年後突然「斉藤由貴。」と答えました。
その時の僕はなぜそう答えたのか理解しました。
僕は斉藤由貴に母性を見ていたのです。
中学生だった頃は母がそういったタイプでは無かったこともあって母性の存在は知っていたもののそれがどういうものなのかは知りませんでした。
斉藤由貴の歌があまり好きではなかった僕が「悲しみよこんにちは」を気に入っていたのはめぞん一刻のイメージがあったのだと思います。
そして似た感情を時問いかけた女の子にも持っていたのでしょう。

その女の子とは特に何もありませんでした。
結局のところ僕にとって母性とは良くわからないものであり、斉藤由貴に対して抱いていたものは幻想に過ぎないのです。そして僕自身が欲しいものでもありませんでした。
元々、二十歳前半の男が女性のタイプとして名前を挙げるには既に30歳に近かった斉藤由貴の名前は少し違和感も有り、その後はもう斉藤由貴の名を口にすることはありませんでした。


ただそういった感情を持たせてくれたことで、今でも斉藤由貴は思い入れのある芸能人の1人であり特別視しています。
ブログの記事を一本書くくらいにはですが。